ハイハイしたての次男をヤケドさせたことがある。あの日も、今日みたいに寒い日だった。古い木造の家は、とくに寒い。
その日は冷え込んでいたにもかかわらず、運悪く灯油を買い損ねていた。さてどうしようかと考えながら、夕飯の支度をしていると、外から灯油売りの巡回車のメロディが聞こえてきた。
「あ、灯油屋さんだ! 灯油、買わなくちゃ!」
そう大声を出した私は、慌てて玄関先にむかった。
大声をだしたのもまずかったし、ベビー用の柵もきちんと締めていなかったのも、もっとまずかった。ほんの一瞬だったのに…。
次男は、柵を抜けて私をハイハイで追いかけてきたのだ。柵の外には、灯油ストーブがあった。次男の大きな泣き声がして、私が振り返ると、顏を真っ赤にして泣き叫ぶ次男がいた。
小さな手がストーブにピタッとくっついている。慌てて抱き上げると、次男の手は真っ赤に腫れていた。慌てて冷やす。冷やす、冷やす。どうしよう…。酷い火傷だ。
病院は、とうに終わっていたから、時間外で診てくれるところを必死になって探した。ようやくみつかった同じ区内の病院は、電車なら50分はかかる。車も免許もない私は、長男をつれて、急いでタクシーに飛び乗った。
病院で手当てが終わったのは夜の9時すぎ。次男の手は、包帯でグルグル巻になっていた。こんな小さな赤ちゃんの手が、包帯で巻かれているなんて…。母親の責任以外何でもないよね。
次男に申し訳なくて、悲しくて、情けなくて…
帰りのタクシーの中でも「ごめんね…」ばかり繰り返した。長男は、そんな私に「お母さん、もうお薬つけてもらったから大丈夫だよ。きっとすぐ治るよ」と励ましてくれる。
赤ちゃんにヤケドさせるわ、上の子にまで心配かけるわ、その上、子どもに励まされてるわ…。サイテーだなぁって…心底、落ち込んだ。
それから数週間、電車で次男の病院通い。そんなある日のこと、隣り合わせた初老の奥さんが、次男の手を見て「どうしたの?」と声をかけてきた。
苦々しい気持ちで、説明する私。ふんふんと、私の話を聞きながら、その奥さんは、「可哀想にねえ、いたかったでしょ…お母さんの責任よねぇ。あなたは何にも悪くないもんねぇ」と、私の顔を見ずに言った。
言葉などわからない次男をあやしながら。
「あなたの責任よね」「そうなんです…、私の責任なんです。可哀想なことをしました」と、精一杯答える私。そう言われて悔しかった。けど、しょうがない。だって、事実だからさ…。
見ず知らずの人から言われたその一言。悪気はなかったんだと思う。でも、あの日の私には、きつい言葉だった。
さ、今夜も可愛い息子たちの顔を見てから寝よう。そして、次男の手を、ドサクサまぎれに寝ている間にスリスリしちゃおうか…。あのヤケドの痕も、ほとんど目立たなくなった大きな手をさ。
ふふふ。まずいかな、まあいいや。母はこっそりひゃっほうだぜ!