混み合う電車で、前にいる男の人の背中に思わず目がとまった。
年の頃なら四十すぎか。大柄でぽよっとした背中。おでこが広くなっている頭は短めに刈り上げられている。蒸し蒸しする車内。何度もハンカチで顔の汗を拭っている姿は、残念ながらあまりにもイケていない。揺れに乗じて、このおじさんの背中に触れようものなら、ベタっときそうで、私は思わず足の踏ん張りを強めた。
その瞬間だ。そのおじさんのYシャツの後ろ見頃、右肩のヨークの切り返しに沿って、淡いピンクの糸で目立たぬように刺繍された小さな筆記体が目に飛び込んできた。なんて書いてあるのだろう。このおやじにピンクの刺繍糸⁉ あまりに意外すぎて、思わず目を細めてガン見する。
Satoshi
とあった。
横縞に織られたクリーム色のYシャツ。そして、目立たぬように刺繍されたファーストネーム。汗ばんではいるが、きちんと見れば品もよく、落ち着いた光沢のあるYシャツだ。決して安物ではないことがわかる。
後ろ身頃、肩よりのヨークの切り返し。ここは、しっかりとハグしたときに目に入る場所だ。浮気除けか? それとも愛してるっていうマーキング? この刺繍を施したのは誰だろう。奥さんか? 彼女か? まぁ、そんなことはどうでもいいが、いずれにせよ、さとしは随分愛されてるなぁーと感心してしまった。
さとし、侮るなかれ。
すっかり朝から当てられた気分。で、少し反省。私は、さとしの相方のように、こんな勢いでダンナを愛しているかと…。
うーん…明らかに違いすぎるモチベーション。やはり今の私には何か努力が必要なんだろうな、うん。
さて、三兄弟の母は乙女の気持ちを取り戻すことができるのか⁈
悩めよ乙女、年女。
それはそれでひゃっほうだぜ♪